論文紹介
19 JULY 2023
Palliative Radiation Therapy for Bleeding from Gastric Cancer
佐野厚生総合病院にて経験させていただいた進行胃癌からの出血に対する緩和照射の治療成績を解析した論文です。症例数は少ないものの、20Gy/5回〜30Gy/10回の照射によって重篤な有害事象なく止血効果が得られることを示すことができました。放射線治療は全身状態の悪い患者さんにも適応できることから進行胃癌の患者さんのQuality of Lifeの改善につながればと思っています。ご指導いただきました安達先生、尾池先生、大野先生、そして佐野厚生総合病院の消化器内科の先生方、スタッフの皆様、本当にありがとうございました!
Clinical Case Reports
doi:10.1002/ccr3.6955
11 JULY 2023
Pluck It Again and Again
肝細胞がんは治療してもまた新しくポコポコと出てきやすいという特徴があります。肝細胞がんに対する局所治療は手術、ラジオ波、カテーテル治療、放射線治療と選択肢が豊富ですが、やはり繰り返しの治療は肝臓に大きなダメージを与えます。本論文では次々に出てくる肝細胞がんに対して重粒子線治療を繰り返し行うことの有効性や安全性を報告しました。権威ある Red Journal で、群馬から世界へ向けて重粒子線治療の魅力をアピールできることを大変嬉しく思います。
International Journal of Radiation Oncology, Biology, Physics
doi:10.1016/j.ijrobp.2023.02.036
03 JULY 2023
CIRT for Inoperable Stage I NSCLC: A Japanese National Registry
医学の世界で最も信頼性が高い臨床試験はランダム化比較試験です。しかし、このような臨床試験に参加するためには様々な基準があるため、臨床現場で出会う患者さんとは必ずしも一致しません。そのため最近ではreal-worldのデータが注目されています。この論文では、特定の期間に日本で治療された全ての重粒子線治療の患者さん(手術不能I期肺癌)を対象とした解析を行いました。4人に1人が間質性肺炎合併であったり、20%程度の方が1秒量1L未満であったりと、まさに臨床で出会うような患者さんを対象としており、その治療成績などが明らかになりました。
Radiotherapy and Oncology
doi: 10.1016/j.radonc.2023.109640
25 JUNE 2023
C-ion RT for Inoperable SFT of the Skull Base: A Case Report
神奈川県立がんセンターからの症例報告です。孤発性線維性腫瘍(Solitary Fibrous Tumor; SFT)はrare diseaseですが、頭蓋底原発となるとさらに稀になります。Rare diseaseに対する重粒子線治療のまとまった報告は症例集積が難しく論文化まで時間がかかるので、まずは症例報告で重粒子線治療がSFTに対しても有効な治療法の選択肢となることを発信できればと思い論文を作成しました。(編者注:柴先生は湘南鎌倉総合病院でご活躍中で、写真は職場近郊からの景色だそうです。素晴らしい環境ですね!)
In Vivo
doi: 10.21873/invivo.13161
17 JUNE 2023
Calreticulin Upregulation in Cervical Cancer after 10Gy-Radiotherapy
放射線照射によって癌細胞の細胞膜上に発現し、抗腫瘍免疫の活性化に関わる、カルレティキュリンという蛋白に着目しました。放射線治療を施行された子宮頸癌症例の臨床検体を用いて解析を行いました。67症例のうち55例で、10Gy照射後にカルレティキュリン発現量の増加が認められ、有意な差ではなかったものの、発現量が増加した群で無増悪生存期間が良好である傾向がみられました。放射線照射によるカルレティキュリンの発現上昇が子宮頸癌の治療成績を向上させる可能性が示唆される結果となりました。
Advances in Radiation Oncology
doi:10.1016/j.adro.2022.101159
09 JUNE 2023
General Frost in Cancer Battlefield
放射線治療を受けた子宮頸癌の患者さんについて、照射前および照射中に採取された腫瘍組織における免疫応答関連分子の挙動を網羅的に調べました。結果、照射中のサンプルにおいて抗腫瘍免疫応答を負に調節するCTLA4の発現が減少していることを見出しました。この知見は、がんvs免疫の戦いにおいて放射線治療が「冬将軍」としてはたらく証拠の一つとして、重要なものと考えます。吉本由哉先生(現福島医大)、松井利晃先生(現埼玉がんセ)、そして今村文香先生(現埼玉循呼セ)と5年越しで襷を繋いだ力作です。
Anticancer Research
doi:10.21873/anticanres.15821
01 JUNE 2023
PACIFIC Regimen Outcomes in N3+e Locally Advanced Non-small Cell Lung Cancer
当院の呼吸器内科の先生方が非常に多くの患者さんの診療を行っていることもありPACIFICレジメンに関して多くの論文を書かせていただいております。N3であってもあきらめずに治療しよう!という内容です。写真は最近講演会などの機会が多いので写真館で撮ったのですが、笑顔がぎこちないのと浮腫みで食い倒れ人形かくるみ割り人形のようになってしまいましたが、ずいぶん高い撮影料を払ったので使い続けようと思います。
Anticancer Research
doi:10.21873/anticanres.16205
24 MAY 2023
Of Same Feathers
40歳になったので顔写真をまともなものに変えました。さて、重粒子線の殺細胞効果はLET(単位長さあたりのエネルギー量)と関係しますが、LETがミックスされた臨床ビームの抗腫瘍効果についての体系的理解は不十分です。本研究では放射線の致死標的であるDNA二重鎖切断の指標γH2AXに着目し、超解像レベルでのγH2AXシグナル体積と殺細胞効果、LETの三者の関係を数式化しました。5年かかりました。共同研究者の慶應大・柴田淳史先生、群馬大・酒井真理先生、松村彰彦先生に感謝いたします。
Journal of Radiation Research
doi:10.1093/jrr/rrac098
08 MAY 2023
Zebra among Horses
前立腺がんには導管癌という特殊なタイプがあるのですが、数が少ないためどのような治療が良いかあまりわかっていません。そこで、JROSGという日本の放射線治療の共同研究グループで症例を集めて解析、報告しました。各施設にどのくらい症例がいるかのアンケートから始めましたが、多施設共同のプロトコール作成、データ収集などずいぶん時間がかかってしまいました。慣れない、つたない運営でしたが、多くの施設の先生方のあたたかいご指導と、ご協力により何とか完遂できました。
Japanese Journal of Clinical Oncology
doi:org/10.1093/jjco/hyac180
30 APRIL 2023
Radiotherapy for Epstein-Barr Virus-Positive Mucocutaneous Ulcer
臨床の現場では教科書に載っていないような稀な疾患をもった患者さんに出会うことがあります。そのような疾患に対しては、どんな治療方法が良いのか、まだはっきりとわかっておりません。そこで役立つのが症例報告です。EBVMCUという疾患に対する放射線治療の具体的な線量はこれまでほとんど報告されていませんでした。今回、私達は4 Gy/2回という少ない線量で治療をして、1年間は制御できたという報告をしました。このような報告が積み重なることで標準治療が確立されていくのだと思います。
Cureus
doi: 10.7759/cureus.30936