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小線源治療

小線源治療は小さな線源(放射線同位元素)を体内の腫瘍の近くに留置して照射を行う治療法です。体内に留置するので位置のずれが非常に少なく、また腫瘍に強く放射線を当てる一方で、周囲の正常臓器への線量を低減し副作用を減らすことが可能です。それゆえ、小線源治療は”究極の高精度放射線治療”と言われています。

小線源治療は前立腺癌や子宮癌(頸癌・体癌)、頭頸部癌、胆道癌、食道癌、肺癌などで行われますが、当科では特に子宮頚癌の治療に力を入れています。

他の癌とは異なり、子宮頸癌に対する放射線治療は外部照射(光子線治療)と小線源治療の組み合わせで行われますが、小線源治療は子宮頸癌を治すために必要不可欠とされています。また、小線源治療の質が子宮頸癌の局所制御率(局所の癌を制御できる確率)に影響することも知られています。群馬大学の子宮頸癌の治療成績は良好で(Ohno T et al. Journal of Radiation Research (2017) 58(4) 543-551. DOI: 10.1093/jrr/rrw121)、当科の大きな強みです。

子宮頸癌の小線源治療ではタンデムとオボイドといったアプリケーターを使用することが本邦では一般的ですが、大きい癌や周囲の組織への浸潤が強い癌はこれだけでは十分な量の放射線が届かない部分ができてしまうことがあります。この場合、従来は組織内照射という、多くのニードルを刺入しその中に線源を留置する方法がとられてきましたが、高度な技術を必要とすることや侵襲が大きいことなどのデメリットがありました。そこで当科で開発されたのが、アプリケーターだけで良好な分布が得られない部分に絞って数本のニードルを刺入する”ハイブリッド照射”という治療法です(Wakatsuki M et al. Journal of Radiation Research (2011) 52(1) 54-58. DOI: 10.1269/jrr.10091)。現在では確かな治療実績が報告され、他施設にも徐々に普及しています。

また、群馬大学放射線科は小線源治療を通じて世界とも繋がっています。 世界で特に有名な小線源治療の施設の1つにオーストリアのウイーン医科大学が挙げられます。ウイーン医科大学は当科の留学先または大学院生のインターンシップ(短期研修)先の1つであり、複数の医局員がウイーンに渡航して世界トップクラスの知識や技術を学んでいます。さらに、当科はFNCA(Forum for Nuclear Cooperation in Asia)の放射線治療プロジェクトに積極的に関わっており、アジア地域の放射線治療の質の向上・均てん化を目標に、現地の放射線腫瘍医に小線源治療をはじめとする放射線治療の知識や技術を共有しています。

このように群馬大学放射線科は子宮頸癌に対する豊富な経験と実績を持っており、これからも患者さんや医療者に「子宮頸癌なら群馬大学」と言っていただけるよう研鑽を続けていきます。


若手医師からのメッセージ

放射線治療の世界に飛び込み、まず私が配属されたのは子宮頚癌・脳腫瘍・食道癌治療チームでした。ここでは私がその威力を肌で感じた、子宮頚癌に対する小線源治療についてお話しさせて頂きます。

小線源治療はアプリケータの挿入や、ハイブリッド症例における針の刺入など手技を伴うこと、またその場でCTを撮影し即座に治療計画を作成することから「自分の手で治療している実感」を味わうことができます。また、画像だけで判断するのではなく、自らの手で患者さんの病変を診察し、上級医と議論して治療計画に活かすことができるということも、小線源治療の魅力です。このように患者さんに深く関わり、回を重ねるごとに信頼関係を築くこともでき、「患者さんと一緒に作り上げていく治療」であると感じました。小線源治療は非常に強力な治療のため、治療経過でみるみる腫瘍が小さくなることも少なくありません。その効果を患者さんと一緒に喜ぶことはとても幸せであり、この世界に入って本当に良かったと思う瞬間です。

令和2年入局 富澤 建斗 先生