論文紹介
07 OCTOBER 2023
Screaming for Vengeance
いくつかの雑誌に蹴られた後、知らない雑誌にtransferを勧められました。軽音出身の私にはこれ(アイキャッチ画像ご参照)しか思い浮かびませんでしたが、名盤なのでまあいっか、と投稿をポチったところ10ヶ月放置された挙げ句にアクセプトされました。オンラインジャーナルが乱立し、ボランティアに基づくピアレビューシステムが崩壊しつつあると感じています。論文内容は新規オンコメタボライトであるクレアチンリボシドの照射後血中動態を初報告したものです。
Heliyon
doi:10.1016/j.heliyon.2023.e16684
29 SEPTEMBER 2023
Immune Checkpoint Inhibitor for Recurrent Head and Neck Mucosal Melanoma Post-Carbon-Ion Radiotherapy
頭頸部悪性黒色腫に対する重粒子線治療の成績は、局所制御率こそ良好な成績でしたが、遠隔転移の発生が生存率を下げる大きな原因とされていました。2014年に免疫チェックポイント阻害剤(ICI)が発表され、悪性腫瘍全般に対する他治療困難や遠隔転移に対しても戦える望みが出てきました。本報告では頭頸部悪性黒色腫に対する重粒子線治療後に不幸にも再発・転移が生じた際、ICIがどの程度応用され、どのような効果があったのかを解析しています。重粒子線治療で局所制御され遠隔転移が生じても、ICIによって予後良好な症例も散見され、併用療法の可能性を期待できる結果でした。今後は前向き試験による、より詳細な報告が待たれます。
Cancer Reports
doi: 10.1002/cnr2.1825
21 SEPTEMBER 2023
C-Ion Radiotherapy for Inoperable Upper Tract Ureteral Cancer
(8月に書いているので)暑中お見舞い申し上げます。こちらも暑いですが群馬は一層過酷なこととお察し致します。どうぞご自愛下さい。さて私もようやく論文出せました。最初の投稿から5誌ダメで1年9ヶ月かかりました。その間に食べて種を植えたマンゴーはここまで成長しました(写真)。めげそうでしたが河村先生、久保先生をはじめ、諸先生方のお力で世に出せました。ありがとうございました。尿管癌に対する重粒子線治療は統一治療方針から漏れてしまいましたが、こちらもいつか実る日がくればと思います。
Asian Pacific Journal of Cancer Prevention
doi: 10.1111/ajco.13960
13 SEPTEMBER 2023
CD8+TIL and Prognosis in Radiotherapy for Cervical SqCC
この研究は福島県立医科大学の吉本由哉先生が群馬大学在職時にされていた研究を、私が引き継いで論文にまとめたものです。CD8陽性腫瘍浸潤Tリンパ球(CD8+TIL)はさまざまな癌腫で予後因子であると報告されていますが、この論文では臨床現場で使いやすい簡便な方法でCD8+TILを評価し、その有用性が示唆される結果となりました。全く新しいものを発見するという研究はとても価値があるものですが、実際に使いやすい方法を考えるという研究もまたやりがいのある仕事です。
Anticancer Research
doi:10.21873/anticanres.16368
05 SEPTEMBER 2023
Is One Word Enough to The Wise?
この論文は、以前私が群馬大学でのIP合併の1期非小細胞肺癌に対する重粒子線治療成績を報告した内容を多施設データに広げた結果をまとめた報告です。重粒子線治療については日本の経験が圧倒的に多いため、世界の大多数の情報を集めたとも言えるかもしれません。単施設からの報告はエビデンスレベルでは劣りますが、背景を理解し詳細な解析が可能です。「木を見て森を見ることはできたのか?」久保先生の後押しもあり、今回全国データを用いた研究に携わらせていただくことができ、良い経験となりました。
Journal of Radiation Research
doi: 10.1093/jrr/rrad008.
28 AUGUST 2023
Intensity Modulated Carbon Ion Radiotherapy (IMCT) for Bone and Soft Tissue Tumor
神奈川県立がんセンターの重粒子線治療は、スキャニング法を用いています。スキャニング法は自由度の高い線量分布をつくることができます。複数方向から照射する場合、通常はそれぞれのビームの線量は均一です。それに対してIMCTでは、X線でのIMRTと同じように各ビームの線量を不均一にして、その合算で最適な線量分布を作成します。このIMCTの技術を用いることで、脊髄などの重要臓器の線量低減が可能です。単純にすごいなぁと思ったので、その成績をまとめてみることにしました。
Anticancer Research
doi:10.21873/anticanres.16446
20 AUGUST 2023
C-ion RT for Liver Oligometastases: National Registry Data Analysis
少数転移性肝腫瘍に対する重粒子線治療の成績の報告です。国内の重粒子線治療施設で行なわれている全例登録のデータを使わせていただいた報告になります。少数転移性腫瘍というのは比較的新しい概念ですが、近年、局所治療による予後改善を示唆する報告が増加しています。今回の報告は、重粒子線治療が転移性腫瘍に対する集学的治療における局所治療の一つになり得るのではないかという内容です。最後になりますが、データ登録・解析に関わられた方に、この場をお借りして御礼申し上げます。
Cancer Science
doi: 10.1111/cas.15871
12 AUGUST 2023
Assessment of a Self-Inspection Method and Reporting Measured Electrometer Correction Factors for Reference-Class Electrometers in Radiotherapy
放射線治療の標準測定システムは電位計や電離箱などで構成されています。近年、これらの校正方法は従来の一体校正から分離校正へと進んでおり、電位計の校正定数が各施設へ渡されるようになりました。しかし、諸ガイドラインにおいては、点検項目として電位計の性能を確認するための0点シフトや0点ドリフトなどが挙げられているのみであり、絶対値の測定は推奨されていません。そこで本研究では、自施設において電位計校正定数を測定しました。電位計の絶対値を測定した報告はこれまでにないため、本研究結果がガイドラインのレファレンスとして用いられることに大きく期待しています。
Journal of Applied Clinical Medical Physics
doi: 10.1002/acm2.14082
04 AUGUST 2023
Carbon-Ion RT for Prostate Cancer with Bilateral Hip Prostheses
両側大腿骨頭置換術後の前立腺癌の患者さんの重粒子線治療を行いました。金属アーチファクトの影響で通常のCTのみでの治療計画は困難です。MRIや金属アーチファクト低減(MAR)CT画像を利用し、標的体積やリスク臓器の同定、線量分布の計算を行いました。当院では通常左右のビームを用いますが、人工骨頭があるため使用できず、前後方向のビームを用いて治療しました。スタッフ全員で知恵を出し合って行った治療です。その経過をまとめることができて嬉しく思います。また個人的にも初めての症例報告で、印象深い論文です。
Case Reports in Oncology
doi: 10.1159/000526932
27 JULY 2023
Carbon-ion Radiotherapy Combined with Concurrent Chemotherapy for Locally Advanced Pancreatic Cancer
2022年4月から根治切除が困難な局所進行性膵癌に対する重粒子治療が保険適用となりました。群馬大学では保険適用以前より先進医療での治療を行っておりまして、その結果を報告させていただきました。重粒子に化学療法が併用できた症例のみを解析対象としましたが、2年局所制御率は76.1%、生存期間の中央値は重粒子開始から29.6か月、導入化学療法開始からは34.5か月という良好な結果で、保険適用に恥じないデータが示せたものと思います。
Cancers
doi:10.3390/cancers15102857