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2016年

ラボマネージャーについて:佐藤 浩央先生(群馬大学)

同門の先生より

近況報告 −ラボマネージャーとしての日々−


皆様こんにちは。2008年卒、国試直前模試の必修科目で偏差値20台をマークしたのも今は昔、無事に医師9年目になりました佐藤浩央です。現在は群大病院にて、放射線科の泌尿器科腫瘍チームの一員として勤務しております。

放射線科の泌尿器科腫瘍チームの中のいち医員ではありますが、実はもう一つ、特殊な役職に就いております。生物研究・実験、研究室運営の統括を行う、通称「ラボマネージャー(以下 LM)」という役職です。そのため週一回の外来以外はほとんど院内におらず、病棟当直では看護師さんに「あ、先生お久しぶりです。」と暖かく迎えて頂いております。このメールマガジンを読んで頂いている学生さんも「ポリクリ回ったけど、佐藤なんて医者いたっけ…?」と思われるかもしれませんが、私は実在しております。

さて今回の近況報告は、編集者より「主に学生をターゲットとして、LMが日々どんなことをしているのか書いてほしい」と、(締切の4日も前に)依頼を頂きましたので、1) LMとはどんな仕事をしているのか、2) 医者が研究を行う意味、といった内容を中心に書かせて頂こうと思います。


1) LMとはどんな仕事をしているのか

現在のLMの仕事は、大きく分けると以下の5つです。

  1. 自身の研究テーマ「放射線治療における腫瘍免疫の重要性」の研究
  2. 留学生(3名)や大学院生の生物実験のコーディネート、サポート
  3. 他教室との共同研究に関する交渉
  4. 医局員の生物研究に関する業績管理統括、コーディネート
  5. その他研究に関する雑務(各種書類作成など)

1.に関して書かせて頂きますと、私の研究テーマは、学位指導を頂きました、現・福島医科大学放射線腫瘍学講座教授の鈴木義行先のご指導から始まりました。2010年の入局と同時に大学院に入学し、鈴木先生から頂いたご指導のもと、現在も一貫して上記のテーマで研究を進めております。

学位取得の直後に、皆様周知の通り、抗PD-1抗体の鮮烈な登場をはじめとした腫瘍免疫全盛の時代を迎えられたことは、非常に幸運でした。現在でも同じテーマを抱えつつ、去年からは群馬大学の先端科学研究指導者育成ユニットの柴田淳史先生と共同研究という形で実験に取り組んでおります。柴田先生はDNA損傷応答の第一人者で、私の放射線腫瘍医としての知識と腫瘍免疫に関する知識を持ち込み「放射線によるDNA修復応答が腫瘍細胞のPD-L1発現を誘導するメカニズムの解析」というテーマで実験を行っております。予想通り、またはそれ以上にいい結果を得られており、半年以内に投稿予定です。

2.について、当教室は昔から多くの留学生を受け入れてきました。現在放射線科には「グローバルリーダー養成ログラム(通称 リーディング大学院)」という大きなプログラムの下、3人の留学生がおります。留学生は生物研究の経験が全くない状態で入学しますので、研究指導は大変です。臨床に例えるなら「未経験者にCVカテーテル挿入から補液量設定までを英語で教える」レベルの業務が続くと想像してもらうといいかも知れません。当然、臨床の片手間でできるものではなく、あらゆる面でサポートが必要になり、その調整・サポートも現在のLMの重要な業務になっています。もちろん留学生だけでなく、医局員の大学院生の教育・サポートも重要な業務です。なぜなら教育は、本報告の書き出しにある通りの成績だった私を「医学博士」にまでしてくれるものだからです。中野教授、鈴木先生はじめ多くの先生から頂いた指導を後輩に伝え、一人の研究者として学位取得をサポートすることが、私を育てて頂いた先生方への恩返しになると信じております。

3.もまた重要な業務と考えています。具体的な結果としては、中野教授のご厚意のもと、今年度より病態病理学教室(横尾英明教授)との共同研究体制を確立しました。生物検体からのパラフィンブロック作成、薄切、免疫染色、結果の評価までを一貫して依頼できる状態です。近年の生物研究の分野では、各部門のエキスパートが協力して一つの研究を進めるのがスタンダードのようです。以前は当教室で行っていた免疫染色ですが、安定した高いクオリティで大量の標本を扱える病理学教室と提携することで、よりクリアな研究結果を得られるようになりました。


2) 医師が研究を行う意味

そもそも、なぜ放射線腫瘍医である私がわざわざ研究中心の役職に就いているのか疑問に思われる方もいると思います。これにはいくつかの理由があります。

まず大前提として、大学病院というのは臨床だけでなく、教育、研究の責任も等しく担っており、この点で他の病院とは使命が大きく異なります。

また、群馬にいるとつい錯覚しますが、放射線腫瘍学は未だ明らかにマイナー分野です。全国的にも依然医師が不足している状態ですので、全国ほとんどの放射線腫瘍医は臨床を中心とした業務に従事し、基礎研究を進めることは難しいのが現状ではないでしょうか。しかしがん治療において放射線治療が担う責任は常に高まっており、つまり、同じくがん治療の中心を担う外科や内科と同じレベルで、分野内の基礎研究が求められると言い換えられます。その意味では、全国トップクラスの人員数を誇る群馬大学放射線科が、放射線腫瘍学の基礎生物研究を進めるのは、もはや使命であると考えます。

ただ、一人の医者の基礎研究能力は、(少なくとも今の私は)率直に言って本職の基礎研究者の足元にも及びません。それでも医師が研究を行う意味は、「臨床からのフィードバック」という、医師しか持ち得ない視点を持ち込めることだと言えます。もっともシンプルな例は「同じ放射線量を同じように投与しても、治る患者さんと治らない患者さんがいる。その原因は何か?」ですが、この感覚は、実際に多くの基礎研究者と話をすると、我々医師の思った以上に乖離のある点のようです。この点が、医師が研究を行う意味であると考えます。

また上記から、医師の理想的な生物研究の体制とは「熟練したスキルを持つ臨床に関心の高い基礎研究者との共同研究」ではないか、と考えるようになりました。


最後に

私は今、本当に毎日楽しく仕事をしています。実際に、上記の通りの理想的な体制での研究を進められています。その環境を整えてくださった中野教授、先代LM尾池先生には大変感謝しております。さらに私がLMの業務に専念できるのは、どんなに忙しくても日々の臨床面での業務を負担してくださる同チームの河村先生、久保先生、水上先生、安達先生、そしてもちろん大学病院の先生方全員のお陰に他なりません。皆様のご協力に応えられるよう、しっかりと成果を出していく所存です。

研究を中心に仕事をしていると言っても、私は医師ですので、最終的な目標は「患者さんのためになる仕事」です。数年がかりの仕事ですが、一人でも多くの患者さんおよび家族が幸せになれる仕事をしたいと思っております。

当教室の教授は「世界のNakano」です。伊香保での中野教授就任10周年祝賀会で教授から提案されました通り「中野教授の名前をNatureに載せること」、この目標は皆様周知の通りです。当然Natureレベルの論文は易々と書けるものではありませんが、その目標を念頭に置き日々の研究を進めることが、いずれ大きな成果につながると思っています。

さて、いざ書いてみると、あまりの長文っぷりに我ながら呆れ果てます。内容もまるで素人の出来の悪い随筆のようになってしまいました。この忙しい時期に、果たして最後まで読んでくださった方がいるのか不安で仕方ありませんが、「LMはどんなことをしているのか」という依頼には応えられたのではないかと思います。

ここまで読んでくださった学生の皆様へのメッセージとして、群大の放射線科では実に様々な生き方を選べる、ということをお伝えしたいと思います。私が強く印象に残っている先輩の言葉で、「群大放射線科の最大の強みは、最新機器ではなく、日本で一番、教えてくれる先輩が多いこと」というものがあります。多くの先輩から指導を頂き、多くの選択肢から人生を選べる、こんなことができる環境にいる私は、32歳にもなって、毎日がとても楽しいです。


最後になりましたが、皆様からの引き続きのご指導のほど、よろしくお願い申し上げます。