寄稿‐2020年度梅垣賞受賞:小松秀一郎先生 (国立開発法人理化学研究所生命医科学研究センター)
2017年(平成29年度)入局の小松秀一郎と申します。このたび日本放射線腫瘍学会(JASTRO)の梅垣賞に採択いただきました。同門の先生方のご支援のもといただけた賞であり、この場を借りて篤く御礼申し上げます。そして、身近で一番サポートしてくれた妻には本当に頭が上がりません。
JASTROの梅垣賞は『審査前年の1月1日から12月31日までの間に発刊された学会誌に掲載された若手(40歳未満)研究者による「放射線腫瘍学に関する学術論文」で、基礎的または臨床的に大きな意義が認められている研究、または先駆的であり将来展開の期待できる研究』に与えられる賞です。JASTROの中枢メンバーも受賞されている歴史ある賞であり、たとえば1995年は白土博樹先生(北海道大学教授)、1996年は永田靖先生(広島大学教授)、2008年には青山英史先生(北海道大学教授)、2013年には神宮啓一先生(東北大学教授)が受賞されています。群馬大学腫瘍放射線学教室では、過去には2001年櫻井英幸先生(筑波大学放射線腫瘍科教授)、2009年石川仁先生(国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構QST病院副院長)が受賞されています。直近は、2016年は吉田由香里先生(重粒子線医学研究センター医学生物学部門助教)、2017年は尾池貴洋先生(腫瘍放射線学教室講師)、2018年は佐藤浩央先生(腫瘍放射線学教室助教)、2019年は小此木範之先生(国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構QST病院医長)が4年連続で受賞されています。同一教室からの5年連続受賞はJASTRO史上初であり、群馬大学腫瘍放射線学教室の実力を示す快挙に貢献させていただいたことは、望外の喜びです。
応募させていただいた論文は、私の博士課程の博士論文です。指導教官である大野達也教授、中野隆史前教授(現在は国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構量子医学・医療部門長)、尾池貴洋講師を始めとする多くの共著者と関係者のご指導およびご助力のもと形にすることができた研究であり、この場を借りてあらためて篤く感謝申し上げます。
研究の始まりは、2017年11月のJASTRO学術集会@大阪でした。群馬大学腫瘍放射線学教室に入局し、そのまま関連病院であった埼玉医科大学国際医療センターに赴任してやっと放射線治療に慣れ始めた頃でした。入局と同時に大学院博士課程に進学していたのですが、日々の臨床に慣れるのに必死で、朝から寝るまでずっと放射線治療の実務および勉強に明け暮れていましたので、研究にはまったく手をつけられていませんでした。しかも、当時のJASTRO学術集会に「頭頸部がんに対するサイバーナイフ治療」の演題で生まれて初めての口演が控えていたため、放射線治療の臨床成績のデータ収集、解析、パワーポイント作成ととても忙しかったのを覚えています。そんな折、私の大学院指導教官になっていただいた尾池貴洋先生が2017年JASTRO梅垣賞を受賞され、受賞講演のために当時海外留学されていたアメリカ国立衛生研究所(NIH)から一時帰国されました。一時帰国のタイミングで今後の大学院博士研究の方向性を詳細にDiscussionしようと言われ、学術集会の中日の昼下がりにグランフロント大阪の一角にあるスターバックスでDiscussionさせていただきました。あのときのことは今でも鮮明に覚えています。そこから今回の梅垣賞をいただいた研究が始まりました。その研究は、放射線治療におけるPrecision Medicineを実現するために、世界中の既報文献すべてからがん細胞の放射線感受性を網羅的に収集したデータベースを作り、他のオミクスデータと統合解析することで新たな放射線抵抗因子を特定しようというものでした。ちょうど、画像認識の分野においてDeep Learningが圧倒的な性能を示し始めていた時期でした。「Deep Learningの技術を使って、既報文献から網羅的に高精度にがん細胞の放射線感受性情報を収集できないか?」と思い立ち、生まれて始めてプログラミング言語の勉強を始めました。実際のプログラミングにおいては、1行書いてはエラーが出力され、エラーメッセージをググり(Google検索)、エラー原因を解決していくというとてつもなく地道な作業の繰り返しでした。開発したプログラムの精度検証と公開を含めて、Radiotherapy and Oncologyに掲載させていただくことになりました。Revisionでは、新規に追加で新しいDeep Learningによる画像認識モデルを作らなければならなかったり、他の雑誌には連続でRejectされたりもしました。山あり谷ありの論文でしたが何とか形にすることができたのは、指導教官の尾池貴洋先生と共著者の先生方の篤いご指導・ご支援のおかげです。この指導力が群馬大学腫瘍放射線学教室の誇る一番の魅力だと思います。
現在は開発したプログラムによって、すべての既報文献からがん細胞の放射線感受性情報を抽出したデータベースを完成させました。同データベースを使用して放射線感受性の規定因子、放射線感受性修飾薬、予想アルゴリズムの探索を行っております。
最後に、この寄稿文を読んでいただいている後輩(予定者含む)にお伝えしたいことがあります。このような大それた賞ですが、私が受賞させていただいた論文は実は私の処女作(博士号論文)です。他に出版論文はゼロですし、放射線科専門医(専門医システムの1段階目)も取得前です。博士号論文であっても、研究に打ち込めばしっかりとした研究(論文)を仕上げることは可能ということが今回わかりました。そして、1本でもしっかりした研究(論文)を仕上げることができれば、評価され名誉を得ることもできるということだと思います。同時に、インパクトのある研究を行うには実力のある指導教官のもと、大きな教室のバックアップ下で行うことが必須だと痛感しました(まさに今回の研究はそういうことです)。そういった目線で考えると、群馬大学腫瘍放射線学教室は最高の環境だと思います(もちろん、研究なしにしても、放射線治療によるがん治療は時代のニーズにも合致しており、やりがいのある一生の仕事だと思います)。
私は2020年4月から国内留学させていただいており、イタリアがん研究基金RIKEN-IFOM Joint Laboratory for Cancer Genomicsのポスドク、国立研究開発法人理化学研究所生命医科学研究センターの客員研究員としてがん細胞の放射線抵抗性の解明の研究に取り組んでおります。スパコンやGPUを含む大規模演算機を用いたドライ解析、機械学習を行っております。興味を持たれた方は、すぐ近くの群馬大学の放射線科の人にお声がけいただければ、と思います。最後までお読みいただき、まことにありがとうございました。