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2020年

寄稿‐群馬大学放射線科の国際貢献活動:小此木範之先生 (QST病院)

同門の先生より

No Challenge, No Life!!

量子科学技術研究開発機構 量子医学・医療部門
放射線医学総合研究所重粒子線治療研究部 医長 小此木範之

 こんにちは!平成20年卒の小此木 範之(おこのぎ のりゆき)と申します。今回は、我々が続けている、国際貢献活動について紹介したいと思います。「こ、国際貢献?」と、戸惑ったあなた!とりあえず、最後まで読んでください。「国際貢献とかマジかっけー!」と、興味を持ったあなた!ぜひ、最後まで読んでください。

 群馬大学腫瘍放射線学教室の特色として、国際色豊かである点があります。重粒子線治療施設があることや、基礎研究のハード(環境)とソフト(人)の充実と同様、これは群馬大学腫瘍放射線学教室の大きな魅力です。先月号のメルマガでは、入江大介先生が放射線治療セミナーを通じた国内のネットワークの魅力について紹介してくれましたが、そのネットワークは「世界にも通じている」と思ってもらえると良いと思います。今回は特に、FNCAの活動を紹介したいと思います。

 FNCA(Forum for Nuclear Cooperation in Asia)は、日本の内閣府、文部科学省が主導する国際協力事業です。アジア地域における原子力の平和的利用のため、現在7つのプロジェクトが行われており、放射線治療はそのうちの一つにあたります。現在、埼玉医科大学国際医療センターの加藤真吾教授(群馬大学腫瘍放射線学教室出身)がプロジェクト・リーダーを務めておられます。日本で行われている標準的放射線治療の具体的手法をアジア地域の拠点病院に教育・共有し、そのノウハウを現地の放射線治療医に習得してもらい、時には問題点について皆で考え、改善策を実行していく。結果として、現地の患者さんにとって有益な放射線治療の提供につながる。こんな流れです。現在、このFNCA・放射線治療のプロジェクトにはバングラデシュ、中国、インドネシア、韓国、モンゴル、マレーシア、フィリピン、タイ、べトナム、カザフスタン、そして日本が参加しており、子宮頸癌、乳癌、上咽頭癌など、アジア地域で罹患者数が多い疾患を中心に、これまでに10もの臨床研究が実施されています。そして参加施設の放射線治療成績の明らかな向上が見られています。強調しておきたいのは、この国を代表する事業おいて、我々、群馬大学腫瘍放射線学教室のメンバーが中心的に関わっているということです。

 さて、ここまで読んで頂いて「そういうの(国際貢献)って、帰国子女とか、英語が堪能じゃないと無理でしょ…」と思ったあなたにこそ訴えたい!英語力なんて、おそらく関係ありません。もちろん語学堪能である方が、より適切なのかもしれません。ただ、大切なのは、それ(英語力)じゃなくて、何かを伝えたいという気持ちであると思っています。

 私自身、帰国子女でもなければ語学堪能でもありません。学生時代はサッカー部でした。身近にいるサッカー部員を想像してください。おそらく、そんなに勉強はしていないでしょう(もちろんサッカー部の中にも勤勉な方もいると思いますが、少なくとも学生時代の私は、講義よりも部活と余暇を優先するような輩でした)。取り柄といえば、体力と根性くらいです。そんな私がFNCAに初めて参加したのは2015年、ベトナム。先輩方のイニシアチブによって、会議がどんどん進んでいきます。同世代の放射線治療医とカタコトで話すだけで、基本、何もできない私。毎食出てくるパクチー。気持ちは沈みました。

 転機は翌年。FNCA参加国の、とある放射線治療医からの1通のメールでした。メールの送り主は、2015年に一度、群馬大学に見学に来たこともあり、FNCAでも早々に打ち解けることができた先生のうちの一人でした。「群馬でNori(私のこと)たちに教えてもらったHybrid brachy注1で、子宮頸癌3Bの患者さんが良く治った。今後、国際学会で発表することにしたの!ありがとう。またFNCAでね!」という趣旨のメールでした。

 衝撃でした。自分たちが身振り手振りで伝えた技術が、他の国の放射線治療医によって確かに実践されていました。そして、それが意味することは、その国において、より多くの命が救われる可能性があるということです。技術と知識に、気持ち・情熱が加われば、国境など関係無いと実感した瞬間でした。

 以降、毎年このFNCAに参加させて頂いています。現在では、子宮頸癌に関する臨床研究の研究事務局、参加施設全体の治療成績のまとめ、現地での腔内照射の習熟のためのHands-on trainingの講師など、やりがいのある仕事を仰せつかっておりますが、参加するたびに、もっと実践しやすい形で伝えるにはどうするべきかと悩みます。そして自分自身の技術と知識をもっともっと磨こうと刺激を受けます。そして多くの学びがあります。それは医学だけではありません。異なる国の文化や伝統を知る機会になります。いかに自分が恵まれた環境で仕事をさせて頂いているか痛感させられます。日本人であることを誇りに思います。FNCAの仕事は私の人生において、今や欠くことのできない仕事になりました。

人生は一度きり、挑戦こそ人生です。
群馬大学腫瘍放射線学教室で、その一歩を踏み出してみませんか?

注1: Hybrid brachytherapy 子宮頸癌に対する放射線治療において重要な役割をもつ腔内照射の一手法。定型的な腔内照射のアプリケーターに加えて組織内照射用の刺入針を併用することで、不整形/巨大な腫瘍に対して十分な線量を投与しつつ、正常組織の線量を低減することができる。

Workshopの様子(2019年@中国)
写真右から 2番目:大野達也教授(群馬大学腫瘍放射線学)、3番目:中野隆史先生(群馬大学腫瘍放射線学前教授)、4番目:加藤真吾教授(埼玉医科大学国際医療センター)

Brachytherapy の hands-on training の様子(2018 年@バングラデシュ) 左写真中央ならび右写真モニター前にいるのが私です!

(この寄稿は群馬大学腫瘍放射線学教室メールマガジン第176号(2020年9月)に寄せられたものです)