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2019年

中野隆史教授 退官のご挨拶

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腫瘍放射線学教室の18年を顧みて

 光陰矢の如し、教授生活もあと1か月足らずとなりました。平成12年の12月16日に放射線医学教室の教授として放医研から赴任して前任の新部英男教授から教室を引き継ぎ、以来、18年が過ぎましたが、実直で優秀な教室員に支えられ、何とか大きな問題もなく、多くの仕事をさせてもらい、教授の任期を終えることに満足感や安堵感と一抹の寂しさを感じております。

 私の放射線腫瘍学における臓器別専門領域は婦人科腫瘍であり、教室員とともにCT・MRI画像による画像誘導腔内照射法の開発を世界に先駆けて行ってきました。この開発は、ハイブリッド腔内照射法として臨床に実用化できました。

 これと並行して、重粒子線治療装置を全国の大学としては初めて大学に導入し、先端的重粒子線がん治療の研究と診療を積極的に推進しました。平成17年6月には重粒子線医学研究センターが設立され、腫瘍放射線学教室と一体となって重粒子線治療を推進してきました。2010年3月から2018年12月までに合計3171名が治療され、目標の年間約600名を達成できました。私たちの治療実績も評価され、2016年からは骨軟部腫瘍が保険適応され、2018年からは前立腺癌や頭頸部癌へ保険適応が拡大されました。2年後には多くの腫瘍に対し保険適応が拡大することを期待しています。また、炭素イオンマイクロサージェリィ治療技術の開発やコンプトンカメラの医療応用は群馬大学独自の研究開発でした。これらの開発については大学病院問題の影響もあり、開発研究費の獲得が困難になって予定通りに進まなかったことが残念です。

 また、群馬大学は当科を中心として、平成16年度「21世紀COEプログラム」では「加速器テクノロジーによる医学生物学研究」、平成23年度「博士課程リーディングプログラム」(文科省)では「重粒子線医工学グローバルリーダー養成プログラム」など、日本のトップレベルの競争的研究教育プログラムを獲得して、大学院レベルで世界をリードする放射線医科学領域のグローバルリーダー養成を推進してきました。今後は群馬大学全学の強みのある学術分野を結集して、卓越大学院プログラムの作成に努力をしていただきたいと思います。当教室は、これらのビッグプロジェクトを成功するために、これまでに国内の最先端研究所のみでなく国際的なトップレベルの研究教育機関と国際共同研究ネットワークを構築して、ハーバード大学、ハイデルベルグ大学、ドイツ重イオン研究所に若手研究員を送り出すなどして研究教育を推進してきました。これまでの論文業績については、私がこれまで発表した英語論文は約270編に上り、Natureグループ誌に5回記事が掲載され、最近では年間50編(IF150)を超えるまでになり、喜んでいます。

 また、国際的には平成26年にアジア放射線腫瘍学連合(FARO)を創立し、事務局長としてアジアの放射線治療の学術研究を推進し、国際協力活動では、国際原子力機関(IAEA)に関わり、主にRCAアジア地域医療領域の責任者ならびに日本政府代表委員として、地域協力プロジェクトの立案、調整、監督などに当たり、当教室でアジア地域研修コースを数多く開催するなどアジア地域のがん放射線医療の向上に貢献しました。平成26年からは外務省のIAEA・RCA国内対応委員会委員長として、放射線医療にとどまらず原子力発電、工業、農業利用など広く放射線科学領域で国際貢献しており、今後も放射線科学領域での国際貢献に期待しています。

 最後に、私たちが開催した学会の中で、特に平成22年の粒子線治療世界大会、前橋市で平成27年に開催した第28回日本放射線腫瘍学会と翌年の平成28年にパシフィコ横浜で開催した第54回日本癌治療学会は最も思い出に残るものでした。2年立て続けに大きな学会を開催し、何とか乗り切れたことは、教室員の頑張りのお蔭であったと感謝しています。

 私は「国際的視野に立った教育・研究」、「思いやり・信頼・責任ある診療」、「チームワーク・自主性・情熱を尊重した教室運営」の教室運営方針で今日までやってきました。これまで、14名の教室員を教授として、世に送り出すことができました。彼らを中心に将来の腫瘍放射線学が発展することを期待しています。私が一般放射線治療に限らず、重粒子線治療や、国際協力活動など多方面で仕事ができたのは、何といっても、素晴らしい教室員たちと群馬大学の多くの教職員の皆さんの支えのお蔭であり、楽しく充実した教授の人生を全うできたことに心から感謝いたします。