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2016年

癌治療学会開催にあたって:中野 隆史教授

同門の先生より

 来る平成28年10月20日(木)から22日(土)にかけて、神奈川県横浜市のパシフィコ横浜にて第54回日本癌治療学会学術集会を開催いたします。開催にあたって、皆様に学術集会の特色をご紹介させていただきたいと思います。本集会はテーマとして「成熟社会における、がん治療のイノベーション」を掲げさせていただきました。成熟社会とは物質的な充足の追求が限界を向かえる中で人生や生活の質の向上を重視する持続可能で安定した社会を指します。我が国では経済的な発展とともに、医療システムも発展し、必要な治療が必要な患者に須らくいきわたるユニバーサルヘルスケアシステムが確立し、世界最高レベルの平均寿命を達成しました。結果として高齢化が進行したことで、必然的に癌患者も増加し、国民の2人に1人が癌に罹患する、とまで言われております。このような時代背景の中で、癌の治療は「癌そのものを治癒する」のは当然のことながら「患者のその後の人生も含めて、患者そのものを真の意味で治癒する」ことの重要性が改めて認識されています。一方で、癌治療の分野では日々技術革新が生まれ、免疫治療やロボット手術など新しい治療が登場しています。これらの新しい技術や既存の治療をどのように組み合わせて「より質の高い、真の治癒」を目指すのか、という課題に対して、癌治療に携わる各分野の専門家、そして癌患者さんが一同に会する本学会の場で議論を深めたいと考えております。

 さて、今回群馬大学が本学会を主催するのは43年ぶりとなります。会場は来場者数の都合で、神奈川県横浜市パシフィコ横浜となりましたが、群馬大学が主催するにあたって、群馬の特色を出せるよう様々な企画を準備しております。本大会の特別講演には国際原子力機関事務局長天野之弥先生をお招きし、原子力の平和利用~発展途上国におけるがんへの挑戦~、についてご講演いただきます。この講演は、長年、日本が取り組んできた、放射線治療の発展途上国への普及、という国際協力活動に対して、群馬大学も微力ながらご協力をさせていただいてきた経緯から実現しました。また、群馬大学には世界でわずか8施設しかない重粒子線治療施設があります。今年4月から、切除非適応の骨軟部腫瘍に対しては、保険適応が認められました。これによって患者さんの経済的負担は大幅に軽減されました。重粒子線治療はより体への負担が少なく、確実な治療効果を望めることが認められてのことであります。本大会では、これらの最先端の治療が癌治療の中でどのような役割を持つのか、各分野の専門家を集め、議論したいと考えております。その他にも、学術大会内では、群馬がん治療技術地域活性化総合特区(がん特区)や世界遺産となった「富岡製糸場と絹産業遺産群」についての講演なども予定しております。

 本大会では一般の方を対象としたプログラムも用意しております。文化人講演として作家五木寛之氏、哲学者の竹内整一氏、俳優梅沢富美男氏などの講演があります。これらの講演は一般の方向けの限定チケットで入場が可能です。さらに、横浜市内の小学生を対象とした「がんジュニアセミナー」なども準備しております。詳細は学会ホームページをご覧ください。最後になりますが、本大会が、癌治療における、分野を超えた専門家同士や医療者と患者さんの議論の場となり、より質の高い癌治療の発展に微力ながら寄与出来る契機となれば幸いです。多くの皆様のご参加を心よりお待ちいたしております。


第54回日本癌治療学会学術集会 会長 群馬大学大学院医学系研究科 教授 中野隆史