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2020年

海外留学報告:村田 和俊 先生(ウィーン医科大学)

海外渡航記

 皆様、ご無沙汰しております。平成18年卒の村田和俊です。2019年5月より海外留学する機会をいただき、ウィーン医科大学でClinical Fellowとして留学生活を過ごしております。この度、中野隆史先生および放射線科医会より、欧州のトップ施設の一つである同大学で臨床や研究に従事する機会をいただきました。本日はその近況報告がてら、こちらの放射線治療事情やウィーンについてご紹介させていただきたいと思います。

 まず、オーストリアについて少し説明しようと思います。オーストリアは中部オーストリアの内陸に位置し、北はドイツ、東はハンガリー、南にイタリア、西にスイスといった位置関係にあります。緯度でいうと樺太と同じくらい、面積はほぼ北海道と同じような国土面積で、総人口は約900万人と日本よりも規模の小さい国家です。歴史としては15世紀中頃から第一次世界大戦までハプスブルク家の帝国として英、独、仏、露にならぶ欧州5大国の一角を占めていました。首都はオーストリア西部に存在するウィーン市で、人口は200万人弱とほぼ札幌市の人口と同じくらいです。文化としてはクラシック音楽が有名で、モーツァルトやベートーベンゆかりの地でありながら、サッカーやウィンタースポーツなどスポーツも盛んで、企業では日本でも有名なRedbullの本社があります。我々に関連の深いところでは国際原子力機関IAEAの本部がウィーンに存在し、国際連合第3の都市として知られています。

 オーストリアは人口10万人あたりの医師数が500名(OECD加盟国中1位、日本は人口10万人あたり230名で26位)と多く、放射線治療医も人口10万人あたり2名(日本は10万人あたり1名)と日本より多く存在します。ちなみに放射線治療の歴史において、ウィーンではLeopold Freundが1897年(X線発見からたった2年)にX線外部照射装置によって有毛性母斑に対する「分割外部照射」を世界で初めて行ったことで有名です。ウィーン医科大学はドイツ語でAllgemeines Krankenhaus der Wien(日本語に訳すとウィーン総合病院となります)という附属病院があって、私はここでJoachim Widder教授率いるStrahlentherapie(放射線治療)部門の小線源治療部にデスクをいただいて、日々の臨床と小線源に関わる研究をAlina Sturdza先生、Christian Kirists先生、Maximilian Schmid先生に指導を受けつつ従事しています。放射線治療部門全体では年間約2000名程度(乳がん500名、肺がん、泌尿器が250名ずつ、消化器と頭頸部腫瘍が200名ずつ、婦人科と脳神経腫瘍が150名ずつといった感じ)の患者の治療をしています。放射線腫瘍医は専門医クラスが14名、レジデントが7名、これに放射線治療部門付きの腫瘍内科医もいて、専門医クラス3名、レジデント2名、さらに放射線治療部門付きの精神腫瘍医も専門医1名とレジデント1名とすべて合計すると28名の大所帯で運営されています。さらに物理部門は物理士が17名、治療部門の技師は46名が働き、さらに放射線生物部門のラボも稼働しています。仕事を各職種でうまく分配しており、17時にはほぼすべての業務が終了しています(それでも医師はどうしても残業する人が多いですが…)。治療機器はライナックが5台(Versa HDが2台、Synergyが3台)、小線源治療機はHDR用のフレキシトロンとマイクロセレクトロンが1台ずつ、日本では馴染みが薄いPDR(≒低線量率小線源治療)装置が2台病室に設置されています。そしてRISはMOSAIQ、RTPSのメインはMonacoと、分かる方には分かると思いますがガチガチにElekta感があります。

 こちらの業務は、毎朝8時のモーニングカンファレンスから始まります。当直の報告や、新患の担当者確認、入院用ベッド(長期入院と短期入院それぞれ10−15名ほど入院可能です)の状況確認を行います。その後はプランをチェックします。こちらの治療計画における医師の仕事はリスク臓器とターゲットの囲みのみで、その後のプラン設計は物理士が行っています。当然、VMAT、SBRTにも対応できます。カンファは基本的にドイツ語で行われていますが、プラン提示に関しては英語でディスカッションが行われます。さらに週に1回は勉強のために、他の教室の教授や准教授による最新の知見についての講義や、放射線治療部門の医師達が持ち回りでプレゼンが行われます。またMEDAUSTRONというオーストリア唯一の粒子線治療施設とも定期的にテレカンファがあります。もともとの陽子線に加えて2019年からは重粒子線治療も開始されており、肉腫など特殊な症例の場合は、モーニングカンファ時や診察時に粒子線が使えるかどうか私の意見を聞かれる場面などもあって、なかなか緊張します。

 小線源治療は専門の治療セクションを持ち、週に3-6名の小線源治療を行います。麻酔に1時間程度、器具の挿入や針を刺すのに2時間、プランに2時間程時間がかかり、下手をすると1日がかりの作業になる事もあります。またセクション内に病室があるため、患者を治療機の近くに滞在させる事が可能です。治療にはアプリケーターを挿入する医師が手洗いをして術野に入り、機械出しのNsが1名、外回りNsが2名、これに小線源治療専門の技師が2名ほど常にサポートしてくれます。さらに麻酔科医が常にいてモニタリングと鎮静の管理をしてくれます。日本に比べると、とても充実したマンパワーの環境で正直うらやましい限りです。そして週に1回はPötter Richard先生がいらっしゃって、ヨーロッパの婦人科放射線治療研究グループであるEMBRACEのテレカンファレンスが開かれます。EMBRACEでは現在全世界の施設が参加している多施設共同前向き試験であるEMBRACE2を進めています。この試験は今年患者登録が終了しましたが、どのように多施設試験を管理しデータをどう解釈していくか興味深い議論が毎週行われ、とても良い刺激を受けています。帰国後に少しでも皆さんにこの経験を還元できるよう頑張ろうと思っています。

 最後になりますがウィーン医科大学をご紹介してくださいました中野隆史先生、留学へ快く送り出してくださった大野達也先生、ウィーンへ行く際に相談に乗っていただいた田巻倫明先生、また忙しい中、人事を調整していただいた神沼拓也医会長、その他全ての群馬大学放射線科関係者の方々に感謝致します。誠にありがとうございました。










写真はウィーンのシンボルであるシュテファン大聖堂とクリスマスマーケットです。