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2021年

寄稿-放射線腫瘍医のステキな週末:武者篤先生(群馬大学)

同門の先生より

 皆さんこんにちは。群馬大の武者です。「休日の過ごし方や趣味について」というテーマで記載させていただきました。お時間に余裕がある時にお付き合いいただければ幸いです。

 突然ですが、「ISS」という言葉を耳にしたことがありますか?ご存知の方も多いかもしれませんが、ISSは国際宇宙センター(International Space Station:ISS)の略称で、1998年11月20日に初めのパーツが打ち上げられてから、この瞬間も地球上空400Kmの高さを秒速7.8Km(地球1周約90分)で飛行しています。ISSの主な目的としては、「宇宙という唯一の特殊な環境を利用したさまざまな実験や研究を長期間行える場所を確保し、その成果を活かして科学・技術をより一層進歩させること、そして、地上の生活や産業などに役立てていくこと」とあり、宇宙空間の巨大な実験施設といえます。国境の無い場所ですが、日本は「きぼう」とよばれる実験棟を有しており、国際協力の場としても重要な役割をしています。

 私自身、重力によって地球に引きつけられているのと対照的に宇宙に強く惹かれ続けてきました。なかでも夜空は宇宙を感じやすく、いつでも夜空を見上げておりました。ISSは裸眼でも夜空に見える事ができる対象でしたので、宇宙飛行士が長期滞在をはじめた2000年頃から意識し始め、日本人宇宙飛行士の滞在が始まった2009年頃から特に、夜空でISSを探しては宇宙への思いを重ねていました。最近ではインターネットサイトで「きぼう予報 https://lookup.kibo.space/」として、いつ・どこでISS が通過するのかが簡単に調べる事が可能ですので、皆さんも参考にしてみてはいかがでしょうか?

 群馬は夜に明るすぎる場所は少ないですので、いつもISSは何処と意識せずに見ておりましたが、ふと写真撮影の敢行を思いつきました。調べていくと少々明るくてもカメラ調整で撮影可能との事でしたので、暗い場所で満足のいく写真を撮りたいと考えました。しかし、日本は電柱が多く、撮影場所を見つける事に苦慮しました。そこで、暗くて電柱が無い場所という事で山の上での撮影を決定しました。

 登る山は群馬大学からも見える榛名山近くの水沢山に決定し、撮影日は前述したサイトでISSの見ごろを確認し2月20日に決定しました。

 5時48分ころが見ごろの予想で、頂上まで1時間程度ですので5時少し前に登り始めました。冷えた空気で静かな山中を、時々吹く風で枝のこすれる音や、自身の足音と熊鈴の音を感じつつ、ひとり静かな登山を楽しみました。快調に登って行きましたが、背の方に見える前橋方面の街のあかりに気が付きました。これが思いのほかきれいでして、何度も振り返りみていましたら頂上に着く前にISSが通過する数分前になってしまいました。頂上では、頭上に何も無いまっさらな状態での写真撮影を想定していましたが、残念ながら木々が生い茂る山の中で撮影する事になりました。幸い木々は落葉により枝だけですが、やはりファインダーをのぞくと枝々が気になります。カメラの三脚も出す時間も無く、登山道の脇にリュックを置き、その上にカメラを置きました。撮影範囲も限られていたので、一眼レフカメラで狙う写真としてその時とっさに思いついたのは、ISS が最後に見える北東の方角です。北東には赤城山があり、赤城山とISSの共演を写真におさめるべく、ファインダーからISSが通過するのであろう赤城の空を覗こうとしました。しかし登山道は斜面であり、覗き込む為には、道に寝そべる必要がありました。数分間ISSの通過をじっと待ちました。すると南西の方角から北東に向かい木々の間を動く光る点が見え始めました。待ちに待ったISSです。一眼レフで狙った撮影地点までは未だ距離があったので、ひとまずスマートフォンでも撮影してみました。点としては認識できる写真でした。そして、天頂付近を通り過ぎ、いよいよ撮影地点に近づきました。私自身はその時しっかりカメラを構え寝そべった形です。撮影時間を考慮し早めにシャッターを開け、露光撮影を開始します。これでうまくいけば尾を引いたISSが赤城山に下りていくような写真が撮影できるはずです。すると登山道の上から足音とヘッドライトが近づいてきたことを感じました。カメラを覗きこみ固定していた為、振り向くことはできませんでしたが、明らかに人が下山してきたようでした。通常であれば、顔を向けておはようございますの一言でも言っているところでしたが、写真におさめたい一心で私は動くことが出来ず、声だけで「おはようございます」と対応しました。すると下山者の声の主は「だいじょーぶかい?」との返答でした。私が倒れたかど うかしたか心配してくれている様でした。しかし私は体調に全く問題なく、ただISSを写真におさめたい一心で寝そべっているだけでした。よほど心配してくれたようで、親切にもシャッターを開けてカメラ固定し寝そべってISSを撮影している私にヘッドライトを当てて確認までしてくれました。露光撮影中だったこともあり、私にはとても長い時間光をあててもらったように感じ、急いで私は体調万全な事と、光を当てないでもらえないかとお願いしました。すると「そーゆーことね」と納得されたようで下って行きました。今になって考えれば暗闇の登山道の中で寝そべっている人がいたら私も迷わず声を掛けると思います。不要なご心配をおかけして申し訳なかったと、この場を借りて陳謝いたします。次回はきちんと時間に余裕をもって三脚をしっかり立てて撮影します。撮影した写真を確認すると、案の定、満足のいく写真は撮影できませんでした。当たり前ですが、やはり露光撮影は三脚必須です。一眼レフよりもむしろスマートフォンの方がわかりやすい写真となってしまいました。

 ISSも見えなくなったので気を取り直し、頂上を目指します。頂上に到達したころには時計は6時を示していました。頂上は無風で気温-1度と過ごしやすく、まだ薄暗い中、周囲を囲む山々は雲に隠れることなく、富士山をはじめとした有名な山々が一望できました。残念ながらスカイツリーは朝靄の中に埋まっており見えませんでした。6時20分ごろに日の出となり、朝が来たのを感じました。頂上で景色を堪能し、次こそはISSをしっかりおさめようと考えつつ下山しました。「ステキな休日」というよりは「ステキな休日朝飯前」となってしまいましたが、こんな感じで日々楽しんでます。ご意見やご感想・ISS写真撮影方法に限らず、どこか山旅のご提案などございましたらお気軽にご連絡いただけたら幸いです。では、またどこかの機会に。

群馬大学 重粒子線医学推進機構 重粒子線医学研究センター 武者 篤