大野達也教授 ご寄稿
2019年10月に群馬大学腫瘍放射線学教室の教授に就任された大野達也教授にご寄稿いただいております。先生の臨床・研究・教育・国際活動に対する熱い思いをいただきました。
「日本の放射線治療をリードし、世界へ!」
令和2年がスタートしました。皆様どうぞよろしくお願いいたします。
昨年10月の教授着任後、今後の放射線科のビジョンや要望について募集し、若い先生達から多くの意見を頂きました。どうもありがとうございます。どれも建設的かつ未来志向的な意見で、1つのファイルにまとめると5ページほどの分量になりました。共通するキーワードや視点を整理し「日本の放射線治療をリードし、世界へ!」を教室の理念(令和元年)とさせて頂きました。今回は、これからの方針について紹介したいと思います。
放射線治療は現在も目覚しい進歩をとげています。 IMRT、定位放射線治療、IGRT、IGBT、陽子線治療、重粒子線治療などの高精度照射技術が百花繚乱のごとく現れ、標的腫瘍に対してより強く、周囲の健常臓器にはより優しい照射が提供可能となりました。いずれの照射技術も、高度化、標準化ともにまだやるべきことがたくさんあります。安全を第1とする体制の中で先進的な医療を提供するため、チーム医療を徹底させましょう。症例から学ぶ、再発と有害事象から学ぶ(繰り返さない)姿勢が大切です。治療技術間の異同や特長を俯瞰することで、相補的に技術を発展させることもできるはずです。現状に満足することなく常に課題に挑戦し、目前の、そして未来の患者のために放射線治療の新たな価値を創造していきましょう。
治療の主役は患者です。放射線治療はそれ自体が目的ではなく、患者に用いる手段の一つにすぎません。放射線腫瘍学に基づくエビデンスを提供するとともに、患者の多様な価値観に寄り添うことも大切です。がん治療における根治的放射線治療や緩和的放射線治療のポジションを向上させ、放射線治療が選択される機会を欧米並みの50-60%に増やし、患者の「生きがい」にコミットしていきましょう。
研究は社会に役立てることを目的に行われるものですが、医療を取り巻く社会は、人口減少、高齢化社会、グローバル化、AI・ICT・IoTの導入、働き方改革など大きく変化しています。また、費用対効果を評価する医療経済学のように、一つの学問分野だけでは解決できない課題がどんどん増えています。元来、放射線治療は全臓器のがん、小児から高齢者までが対象となり、生物学、物理学、医用工学などの基盤に基づく、裾野の広い学問分野です。社会と異分野への関心を持ち、ワクワクするようなテーマを見つけて研究し、我々の長所をさらに伸ばしていきましょう。
教育では、我々が何を教えたかよりも、学習者が何を学んだかの方が大切です。放射線科では、歴代教授の指導のもと、これまで一貫して人材育成に力を入れて取り組んできました。特に、後期研修以降に大学院生や専攻医となり、博士号、放射線治療専門医、がん治療認定医、第1種放射線治療取扱主任者など多くの資格所得を目指し、かつ家庭や子供を持つなど大きなライフイベントのある時期の教育体制を充実させることは大切と考えられます。放射線治療医としての将来に対する価値観も多様なはずです。誰かの犠牲の上に成り立つシステムはよくありません。仲間を思いやること、そして自らも健やかであることが必要です。多様な世界の中で皆が能力を発揮し、自己実現が果たせるようシステムを整えていきたいと思います。
群馬大学の放射線科は、これまでIAEA、FNCA(Forum for Nuclear Cooperation in Asia, Radiation Oncology Project)、FARO(Federation of Asian Organizations for Radiation Oncology)などの国際活動に日本を代表して取り組み、開発途上国の留学生や研修生を数多く受入れるなど、アジア地域の放射線治療の標準化と人材育成に多大な貢献を果たしてきました。また、世界でまだ13施設しか稼動していない重粒子線治療については、欧米の先進的医療機関との共同研究や人材育成事業に取組むとともに、海外の患者を多数受入れてきました。グローバルな国際交流は我々の最大の強みです。世界のレベルを知るから日本をリードできる、世界の広さを知るから多様な価値を理解することができるのです。群馬大学の放射線科が国際的な人材交流拠点となるよう、引き続き活動していきたいと思います。
We are sailing! さあ、大海原を越えていこう!
群馬大学 大学院医学研究科 腫瘍放射線学講座
教授 大野達也