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2020年

寄稿‐医学生・研修医のための放射線治療セミナー:入江大介先生 (群馬大学)

お知らせ

夏の春待草

〜日本放射線腫瘍学会第36回医学生・研修医のための放射線治療セミナー開催を振り返って〜
群馬大学医学部附属病院放射線科 入江大介


 8月になり、日に日に暑くなってきましたね。皆さんはどんな時に「夏が来たなあ」って実感されますか? 梅雨が明けたとか、蝉の鳴き声とか、冷やし中華始めましたとか、色々あるかと思います。私は「大阪で婦人科骨盤模型をいじっている時」に「今年も夏が来たなあ」ってしんみりします。ちょっと変わってますかね? 順を追ってご説明しましょう。

 日本放射線腫瘍学会(JASTRO)では毎年7月、レジナビに合わせて大阪・東京それぞれの会場で医学生・研修医を対象にした放射線治療セミナーを開催して来ました。かれこれ25年続いているセミナーで、全国の放射線治療医に混じって群馬大学放射線科のメンバーも長年お手伝いしてきました。かくいう私も研修医2年目だった2011年にセミナーを受講して「なにこれ楽しい」と思って以来、翌2012年に放射線科に入局してからほぼ毎年、チューターとして参加しております。セミナー自体は年ごとに肺癌や食道癌、前立腺癌に転移性骨腫瘍など厳選した症例を取り上げて放射線治療を教えているのですが、私は器用にあれこれ教えられるタイプではないので、毎年志願して子宮頸癌腔内照射実習のみを担当してきました。なので、毎年7月初旬に大阪のセミナー会場で婦人科骨盤模型を相棒に、医学生や研修医の皆様に腔内照射を教えるところで夏の訪れを実感するのです。


 ところが今年は違いました。本来なら7月4日に大阪会場、そして11日にはオリンピックによる東京の混雑を回避するため、初の九州開催となる福岡会場でセミナーが開催予定でした。しかし、COVID-19のせいで第36回JASTRO医学生・研修医のための放射線治療セミナーはweb開催になることが4月に会議で決定されました。よりによって私が実行責任者の年にこんなことになった訳です。そして、そこにはとんでもない問題が潜んでいました。それはセミナーの中心を成す、治療計画装置(パソコン)を実際に操作する「治療計画実習」と私が担当してきた「子宮頸癌腔内照射実習」について、どちらも手を動かして何かを操作する実習であり、webでそのままの形で開催することは不可能だという事実です。

 こんな時は諺に曰く「3人寄れば文殊の知恵」と言う訳で、北は北海道、南は沖縄に散らばっているセミナー実行小委員会の委員12人がChatworkで常時チャット会議したり、月に2–4回くらいの勢いでzoom会議したりしました(何度か懇親会のテストと称してzoom飲みもしました)。するとやはり先人の知恵はサイバー空間でも有用なようで、なんとか工夫して実習ができそうなアイデアが出てきました。その結果セミナー本番では56名もの参加者を集め、zoomのお絵かき機能を使って参加者に同時にCT画像上の腫瘍を描き出してもらい、それぞれの描いた輪郭を見比べて議論してもらったり、それを放射線治療医が解説・フィードバックしたり、アプリとbluetoothを使って私のスマホをアクションカメラ化し、子宮頸癌腔内照射の術者目線で手技を解説したり、普段はなかなか見学できない群馬大学重粒子線医学センターの加速器室を動画で紹介したりとwebだからこそできる形の新しい実習ができました。おかげさまで、参加者アンケートでもそれぞれ好評を頂きました。

 来年はどうなるのでしょうか? COVID-19の状況にもよりますが、少なくともwebでの開催はあると思います(±実地開催)。その場合は今年よりも準備期間が取れるので、場合によっては治療計画装置を遠隔操作することで実地でのセミナーとほぼ同等の治療計画実習ができるかもしれません。Webセミナーの長所は気軽に参加しやすいことだと思います。是非、お気軽にご参加願います。勿論、実地開催があり、そちらに参加頂けるならばそちらの方が臨場感もあるし友達もできやすいし懇親会も楽しいのでさらにオススメです。


 そもそも、なんで我々がこんなセミナーをやっているのかと申しますと、3つの理由が挙げられます。すなわち、①放射線治療が好きで進路としてお勧めできるから、②東京・大阪へ出張するいい機会だから、③スタッフ、参加者も含めた全員にとって「繋がり」ができるきっかけになるから、ということです。①は常日頃、私も私以外の放射線治療医も皆が申し上げていますね。②についても紙面の都合もありますし詳しく触れるのはやめときます。そこで③について詳しく申し上げます。

 本セミナーには全国津々浦々から放射線治療医と、放射線治療に興味がある医学生・研修医が集まってきます(興味があるというのも、「入局決定」から「他の科を考えているけど一応興味がある」まで様々です)。そしてセミナーを通じて仲良くなった時に、日本の放射線治療業界はまだまだ人数が少ないので、繋がりが維持しやすいんですね。業界の中で、お互いが埋もれず、目立ちやすいのです。例えばあの時セミナーで教えていた参加者が数年後にJASTRO学術大会で発表されていたり、患者さんを紹介してくれたり(群馬大学は重粒子があるから特に多いです)、そして今度はチューターとしてセミナーに協力してくれたりと色々あります。私個人としてもセミナーで出会った他施設の同期との繋がりは大きく、臨床のことをお互い相談したり、学会でも食事やお酒を共にしたり、専門医試験の時もお互い情報や勉強した内容を共有したりと助け合っております。つまり、このセミナーを通じて放射線治療に興味を持ってもらい、理解を深めてもらうことも目的なのですが、参加者や若いチューター・スタッフの繋がりを生み出すこともまた大きな目的・メリットなのです。


 今年のセミナーは終わりましたが、また来年開催されます。ご興味がありましたら、来年の夏が来る頃……では申し込みは締め切っているので、春が来る頃〜ゴールデンウィーク前にJASTROのホームページからご確認、お申し込みをお願いします。丁度タイトルの春待草(スミレの一品種)の開花時期です。春が来たら思い出していただければと思います。

 え、春はまだ遠い? ではその間に当科見学はいかがでしょう。現在、見学受け入れ再開しております(今後の動向次第ですが……)。当科ホームページに 申し込みフォームがあるので、お気軽にご連絡頂ければと思います。皆様にお会いできることを楽しみにしてます!