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2015年

海外留学報告:吉本 由哉先生(群馬大学)

海外渡航記

 皆様、こんにちは。平成20年卒業の吉本由哉です。2013年8月から2015年6月末まで、スウェーデン・カロリンスカ研究所に留学しておりましたが、帰国し、7月より群馬大学医学部附属病院で働いています。今回は臨床業務に復帰しての感想と、帰国直前のスウェーデンでの生活について書きたいと思います。

 現在私は群大病院放射線科で、野田真永先生率いる脳・食道・婦人科グループで診療にあたっています。当グループは治療件数、入院診療共に多い非常にアクティブなグループで、また、組織内照射など侵襲的な手技も日常的に行うのが特長です。レジデント時代からお世話になっている先輩の村田和俊先生、同期入局の小此木範之先生にもサポートしてもらいながら(おんぶに抱っこ?)、2年のブランクを埋めようとなんとか頑張っています。久しぶりに臨床業務を行うにあたって、重要に感じているのは基本知識(学問的なこと)です。手技的・ノウハウ的なこと(Xioなどの治療計画プログラムの使い方、病棟でのオーダーの入れ方、腔内照射アプリケーターの組み立て方、など)はすぐに思い出すし出来ますが、解剖や、画像診断、治療に用いる放射線生物学は、以前知っていた以上は出来ませんので、日々基本書に立ち返って確認・勉強しています(今は、臨床のための解剖学・ムーア著、が気に入っています)。

 私が学んできた腫瘍免疫との関連でいうと、食道がんでは樹状細胞注射と併用した免疫放射線治療の計画が既にあること、婦人科腫瘍では、腫瘍浸潤リンパ球の元となる生検材料に普段からアクセスしていること、IV期を含んだ幅広いステージの症例の診療を行っていることなど、免疫放射線療法を立ち上げて進行癌の治療研究を進めたいと思っている私にとって、とても面白い環境です。カロリンスカ研究所での師匠、Rolf Kiessling先生はメラノーマを専門とする腫瘍内科医でもあり、研究室ではメラノーマに関わる様々な研究を行っていました。私も研鑽を積んで早く一人前になり、臨床での得意分野をつくることで、基礎研究も推し進めて行きたいと思います。

 スウェーデン・カロリンスカ研究所での後半1年間は、主にアメリカ・ボストンのベンチャー企業との共同研究を行っていました。ベンチャー企業が開発した新しい薬剤を用いて、リンパ球の抗腫瘍活性を増強させるのですが、詳細は特許などの関係でまだ論文化を待っている状況ですので、お伝えすることは出来ないのが残念です。このプロジェクトでは彼らとのやりとりを通じて、基礎研究における実務的なことをたくさん学ぶことができました。具体的には、彼らと、私たちKiessling研究室の、どちらが論文発表を行うのか、どれくらいの期間、独占的に彼らの新規化合物を用いることが出来るのか、そのための契約書、こちら側の研究計画書、などなどを煮詰めて行きます。その後は、FedExで化合物を配送してもらい、税関に引っかかるとそれを通すために電話をかけて、受け取った化合物で実験をして、結果をまとめるとSkypeでMeetingをする、といった具合で進んで行きます。こちらの研究室でも、個々人で得意分野があるので(リンパ球を分離する、増やす、殺細胞能の評価、動物実験、qPCRやFACSなどなど)、何人もの仲間に彼らのテクニックを教えてもらいながら進めて行きます。これらはもちろん英語で進められるので、英語に苦手意識を持っているような私にとっては大変な状況です。留学1年の時点ではまだまだ悲惨な会話力ですので、Discussionの前日には練習と想定問答をつくり、それでもやはり足りずに、最後はメールを送ってフォローするときも(我々日本人は、読解は出来るので)ありました。帰国少し前の2015年3月には共同研究者がストックホルムを訪問し、そのときは私がホストを務めて、研究室や周辺の案内や、会食のセッティングを行いました。英会話力の点でも戦々恐々だったのですが、逆に周到に準備したのが功を奏して、大変に喜んでもらえて、このことが私にとってもとても嬉しかったです。

 留学1年半くらいとなると、同僚や、寮のご近所さんと飲みに行ったりするのが自然と出来るようになり、また面白くもなってきました。語学力もそうですが、相手国の文化やキャラクターをある程度解るようになるのも重要な点だと感じました。会話は、休日どうしているといった他愛ない話に始まり、互いに好きな映画の話をしたり、航空機やヨット、海流などマニアックな話や、あるいは噂話や、若い学生の恋愛話を聞くことなどもありました。このころになると、もっと長い期間スウェーデンに止まって、彼らともっと過ごしたい!とも思うようにもなりました。

 2015年6月末に帰国することとなったのですが、スウェーデンでは、自分の誕生日も、歓迎会もお別れ会も、自分で企画しなければなりません。日本人の私たちの感覚からすると少々奇異ですが、郷に入っては郷に従うのも日本人。私も自分のフェアウェルパーティーを主催してきました。20名近くを自宅に招いてのパーティーなど、日本でも行ったことがありませんし、ヨーロッパではベジタリアンが一定人数いたりと、用意する食事も気をつけなければいけません。幸いにも、日本食は欧米でも人気で、天婦羅、寿司、納豆、日本酒などを含めた料理の宴会にして、好評を博することができました。

 海外留学の機会を頂いて、中野隆史教授をはじめ、医会の皆さまには本当に感謝をしております。有難うございました。私にできる最大のご恩返しは、今回構築した人脈を、長く続け、さらに発展させることであると思っています。幸い、Rolf Kiessling先生や、准教授のAndreas Lundqvist先生には「君の仲間や学生は、いつでもwelcomeだ、カロリンスカに来てくれるなら歓迎するよ」と言って頂くことができましたし、現在も共同研究を続けています。近い将来に、今度は群馬大学発のプロジェクトを彼らのところに持ち込んだり、カロリンスカ研究所と群馬大学で若手の人事交流などをして、共同研究をますます発展させてゆくのが私の抱負です。

 引き続き頑張って参りたいと存じます。どうも有難うございました。




研究者寮(自宅)でひらいた、自分自身のお別れパーティー。こうして見ると、皆の背が高いのに驚く。宴もたけなわで半分くらいに人が減ったところ(23時頃)だが、外はまだ明るいです。




研究者寮Wenner-Gren Centerの中庭と中心ビル(このビルではなく、これを取り囲む建物に住んでいます)。寮の入居は2年待ち。空の色も北欧では日本とやや違うようです。