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2017年

短期インターンシップ報告:大西 真弘先生(群馬大学)

レジデント便り

 皆さま、こんにちは。この4月で入局4年目になります、群馬大学医学部附属病院の、大西真弘です。今回、重粒子医工学グローバルリーダー養成プログラム(リーディング大学院)で、2週間の短期インターンシップを行う機会を頂き、アメリカ合衆国テキサス州ヒューストンにあるアメリカ航空宇宙局(National Aeronautics and Space Administration, NASA)Johnson Space Center(JSC)にてインターンシップを行いましたので、報告させて頂きたいと思います。

 テキサス州はアメリカ本土南部、メキシコとの国境に位置しており、その面積はアラスカ州についで第2位で、およそ日本の2倍の広さです。日本との時差はマイナス14時間です。ヒューストンはテキサス州最大の都市で、Space Cityという愛称で呼ばれています。ヒューストンでは、移動手段はほぼ自家用車です。街ではスクールバスは時折見かけますが、歩いている人はほとんどいませんし、自転車もタクシーも見かけません。私の宿泊先はJSCにもっとも近い立地にあるホテルで、入り口までは徒歩10分ほどでしたが、センターの中は広大で、研究室まで歩いて30分以上かかりました。その後、自転車をお借りして、通勤時間は短くなりましたが、生活をするには車は必須で、つぎに来るときは国際運転免許を持ってきたほうがいいと言われました。

 JSCは全米に10施設あるNASAのフィールドセンターのひとつで、宇宙飛行に関する訓練、研究、管制センターの役割を担っています。よく知られているフロリダのケネディ宇宙センターは、有人宇宙飛行のための発射場です。私は、Human Adaptation and Countermeasures DivisionのRadiation Biophysics Lab ManagerであるWu, Honglu先生のもとで、インターンシップを行いました。Honglu先生の研究室では主に、微少重力、宇宙放射線による細胞や遺伝子に対する影響について研究を行っています。私がインターンシップを行った37番の建物は歴史的は、アポロ計画において月から帰還した宇宙飛行士からの未知の病原体の感染を予防するため、宇宙飛行士が隔離され、検査が行われた建物です。現在は、ライフサイエンス分野の研究が行われています。私は主に、ドイツから来ているMaria Moreno-Villanueva先生のご指導のもと、実験を行いました。

 インターンシップ初日には、血液を取り扱う実験を行うにあたり、NASAの血液防護の安全講習会を受講しました。2日目以降は、基本的には、朝は8時より実験を開始し、昼の休憩を挟み、夕方まで実験を行いました。少し意外に思いましたが、研究室のメンバーは朝8時には規則的に出勤し、夕方までしっかりと働いていました。JSCでは土日の休日に加えて、平日に1時間ずつ長く働くことで、2週間に一度は金曜日を休日にしているような工夫がなされていました。実験は具体的には、宇宙飛行士から採取した血液サンプルからリンパ球を分離し、PCR法にてDNA解析を行ったほか、健常者ドナーの血液サンプルから分離したリンパ球を疑似微少重力下で培養し、放射線照射や薬剤投与によって生じる影響についてフローサイトメトリー法などを用いて解析を行いました。また、蛍光顕微鏡を用いて染色体異常を観察するなど、さまざまな経験をさせて頂きました。血球分離からフローサイトメトリーまでの一連の実験は、ひとりで出来るまでになり、教えて頂いたテクニックは、現在行っている自身の研究にも活かすことができるものでした。

 そのほか、いくつか他の研究室の見学も行いました。免疫学の研究室においては、宇宙の微少重力下で使用するために開発されたフローサイトメーターが印象的でした。Spacesuit life support designを行っているHeather Paul先生の研究室では、微少重力下において生じる骨粗鬆症や筋力低下を防ぐための宇宙飛行士のトレーニングについて講義を受けました。また、国際宇宙ステーションの利用についてNASAとの調整を行っている宇宙航空研究開発機構(Japan Aerospace Exploration Agency, JAXA)ヒューストン駐在員事務所を訪問する機会を頂きました。久留所長より、JAXAが行っている事業や国際宇宙ステーションの船内実験室「きぼう」における宇宙実験について説明を受けました。今回のインターンシップについて話をしたところ、今後、文部科学省などと協力して、日本の学生がNASAでインターンシップが行えるような枠組みを作っていきたいと仰っていました。久しぶりに日本語で話をして、ほっとしました。

 週末は、Honglu先生のご自宅にお食事に招いて頂きました。Honglu先生は、テキサスだからだよ、とおっしゃっていましたが、広大な敷地にプールやテニスコートもある豪邸で、庭で巨大なステーキをグリルで焼いて頂き、楽しい時間を過ごしました。

 今回のインターンシップは、重粒子線治療に直接的に関わるものではありませんが、人類の夢を現実にする最先端の研究を行っているところでは、群馬大学の重粒子線治療とNASAの精神は共通するものがあり、その中で、インターンシップを実施出来たことは有意義でした。英語で言いたいことをうまく伝えられないことも多々ありましたが、どの先生にも親切にして頂き、帰るときには、Honglu先生に、今度は長期に研究しに来るといいと言って頂き、嬉しかったです。

 今回のNASAのインターンシップは、高橋昭久教授にHonglu先生をご紹介頂き、実現しました。重ね重ね厚く御礼申し上げます。また、このような貴重な機会を与えて下さった中野隆史教授、医会の諸先生方、手続きを手伝って下さった事務の方々に、この場を借りまして心より感謝申し上げます。