海外留学記ー吉本由哉先生(カロリンスカ研究所)

皆様、こんにちは。平成20年卒業の吉本由哉です。海外留学の機会を頂いて、一昨年の8月よりスウェーデン・ストックホルムにあるカロリンスカ研究所に博士研究員として在籍しています。早いものでスウェーデンへ来てから1年と5ヶ月が過ぎました。前回2014年4月にも近況についてご報告させて頂きましたが、今回はその後の研究の進展や、日常生活のことについて書きたいと思います。

私の所属しているRolf Kiessling研究室は、活気のあるグループです。准教授が1名、ポスドク(博士学位取得後の若手有期研究者)が4名、PhD学生が4名、Master course学生が5名程度います。人の入れ替わりも活発で、私のいる間だけでも、ポスドクは1名が産休に入り、その後復帰、新たに1名のポスドクも加わっています。PhD学生は2名が卒業、もう2名が今夏卒業予定で、1名が新たに加わりました。Masterの学生は、Exchange programでヨーロッパ中から応募してくるため、さらに流動的で、6名が既に卒業しています。このようなメンバーと、ゆるい同盟関係を築きながら、複数のプロジェクトに参加・進めてゆくのがスタイルです。“ゆるい同盟”というのは、実験方法を教え合ったりすることに始まり、培養している細胞を融通したり、測定機器のタイムをシェアしたり、同じゲルでサンプルを流したり、IL-2を貸したり、抗体をもらったりといった、生物系実験室でよくあるようなことです。私たちは腫瘍免疫の研究室で、T細胞やNK細胞を扱うのが特徴です。これらの細胞は正常ヒトリンパ球から培養可能で、カロリンスカ大学病院から健常者血液を買うことも出来るのですが、私たち自身からも培養可能です。そこで急ぎの実験などでは、私が採血を頼まれることになり(苦笑)、もうずいぶん皆から採血したものです。ご存知のように、若者では血管迷走神経反射が出やすいので、採血する方もかなりの気を遣ってやっているのですが。用意した血液は、密度勾配法で単核球を分離した後、磁気ビーズでNK細胞を分離し、IL-2と照射後feeder細胞と共に約10日間培養します。出来上がった活性化NK細胞は、また皆で融通し合いながら、遺伝子導入や細胞障害試験などを進めてゆきます。このような研究の一つで私も携わっているプロジェクトが昨年9月、Clinical Cancer Research誌にアクセプトされました。未分化甲状腺のNK細胞感受性が癌細胞表面のULBP2タンパク依存性であること、免疫療法のターゲット足り得ることなどを示した論文で、PhD学生のErik Wennerberg君、准教授Andreas Lundqvist先生との共同研究です。現在はこれを受けて、NK細胞による臨床試験の準備と、甲状腺未分化癌の放射線/化学療法剤によるNK感受性変化の実験などを行っています。

ストックホルムは海に囲まれており、気候は穏やかです。夏は暑くとも25〜30℃程度で乾燥しています。冬はマイナス20℃になることもあるようですが、稀です。積雪量もそれほど多くはありません。昨冬・今冬は暖冬で、気温は0〜マイナス5℃前後です。先日は凍った湖にスケートをしに行きました。多くのスウェーデン人はスケート持参で、さらに専用のストックと、水中に落下したときのための脱出用ピック、浮き袋にもなるバックパックを持っています。寒い年には海が凍り、島まで渡れるそうで、氷の厚みと耐荷重などについて説明した専門書まで売られています。

ストックホルムは住宅事情が大変厳しく、ワンルームのアパートで10,000クローネ(15万円)することも珍しくありませんし、一年以上連続で借りられるところはほとんど見つかりません。私は、カロリンスカ研究所の近くにある研究者用の寮を2年以上前に申し込んで、昨夏にようやく入居できました(それまで一年間は妻の名義で学生寮に住んでいました)。住宅確保は激戦ですが、家そのものはとても快適です。スウェーデンハウスという日本の住宅メーカーをご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、窓は二重(または三重)で、暖房設備も良く、室内で寒さを感じることはありません。黄色や赤に塗られた家は最も北欧らしいかもしれません。

ところで、もっともストックホルムらしいものと言えば、ノーベル賞に関するイベントでしょうか。今年は物理学賞で日本の先生方が受賞をしましたが、受賞講演が行われるストックホルム大学はすぐ近くです。世界の一流講演を直に聴けるのも、非常に貴重な経験です。

最後になりましたが、このたびは海外での研究の機会を与えて頂き、医会の皆さまには本当に感謝しております。引き続き頑張ってゆきたいと思います。